Vol.5 ホンマモンズ 美味しいといわれたい!
2013/06/04
といってもヒーロー戦隊ものではない。ケーキ作りの好きな子育て仲間の6人のことである。
子供の誕生会を開くたびに、ケーキを作って集まった。美味しい!の声をきくと、もうどこまでも木を登っていって、またケーキ作りに没頭する毎日。6人の間をいくつものレシピが行き交い、たくさんの失敗作を食べさせ、食べさせられながら、美味しい!と聞くたび、高みを目指して、木を登る。だんだん手の込んだものを作るようになり、誰が名付けたかホンマモンズと呼ばれていたのである。
あの頃毎夜子どもが寝てからキッチンに満ちる甘い香りは、日常に追われてかさかさにひび割れていた心に、シロップを打つようにしみこんでいった。
やがて子供たちは大きくなって誕生会もなくなり、ケーキを作る機会もなくなった。それでもたまに、自分のためにバターケーキを焼く。紅茶をすすりながら、一口食べ、美味しい!と自分を褒めてはみるが、あの頃の美味しい!はなかなか再現できないでいる。
(SC000099 石井伸枝)